566.デビル石 Devilline (ギリシャ産ほか) |
銅を含む二次鉱物というと、タンバン(chalcantite)、炭酸青針銅鉱(Cyanotrichite)、水亜鉛銅鉱(Aurichalcite)など青色系のものが多い。もちろん藍銅鉱(Azurite)とか孔雀石(Malachite)とか暗い青(藍)、濃い緑色のものもあるが、イメージとしては全般に空色〜淡い青緑色の爽やかな感じがある。 デビル石は名前こそ禍々しいが、その姿の楚々として優しいことは予想を裏切らない。 原産地はコーンワルで、1864年に発見されフランスの化学者 H.E.サン・クレール・デヴィーユ(1818-1881)に因んで命名された。発見者はフランスの標本商ピサニ氏だが、何故フランス人がコーンワルの新鉱物を?(そしてフランス人の名前を?)とまずは疑問が湧く。
ある資料によると、地元コーンワルの標本商だったリチャード・トーリン氏(1820-1883)が一枚かんでいたらしい。半径100キロ圏内に多くの著名な鉱山を臨むロケーションに居を構えていた氏は、原産地標本の提供に随分貢献したそうで、ラング石(1864年、オーストリアの結晶学者ラングに因む)、デビル石(1864年
本鉱)、ベイルドン石(1864年)、ボタラック石(1865年)、チャーチ石(1865年、イギリスの化学者チャーチに因む)、ウッドワード石(1866年、イギリスの博物学者ウッドワードに因む)、ラドラム鉄鉱(1876年、イギリスの鉱物コレクターでトーリンの大顧客だった)などの発見に直接関わったという。ジョン・ラスキンも彼のいい顧客で、1865年から73年の間におよそ1,200個の標本を購入している(マニアだ)。
そして、フランスの標本商フェリックス・ピサニ(1831-1920)もまた彼の得意客だった。詳細は分からないのだが、おそらくピサニ氏はトーリンから仕入れた標本を吟味していて、新鉱物に気づいたのだろう。
デビル石は銅とカルシウムの水酸硫酸6水和塩で、(理想)成分的にはサーピエリ石の亜鉛成分を含まない種に相当する。サーピエリ石は結晶構造中、特定の位置に亜鉛が入り、置換位置の選択性によって独立種とされているものだ。もし銅の位置を(少量の)亜鉛がランダムに交代するものがあれば、それはデビル石ということになる。 デビル石の結晶形はさまざまあるようだが、葉片状が基本と思われる。鉱物写真集などで、葉片状結晶が毬のように集合したものを折々目にするが、姿のいいものは高級品で、指をくわえてみているほかありません。
なおトーリン氏の顕彰については、上に名の出たチャーチが、1865年にトーリン石(Tallingite)を記載した。しかし、今日その石はコンネル石に統合されている。またピサニ氏の名は銅緑ばん(Pisanite)に残されたが、こちらも緑ばん(Melanterite)の亜種となっている。
cf.イギリス自然史博物館の標本(ピサナイト)
補記:ピサニが報告した翌年(1865)チェルマックは、水で処理すると石膏と青色の硫酸銅になることから混合物と判断した。その後、チェルマックの試料をマイズナーが再検討して均質物であることを確認し、スロバキア産の
herrengrundite と一致することを示した(1940)。